ーーあれ?
「もしもし?」
意気込んで出ただけに、肩透かしを食っていると、ふと、小さな吐息が聞こえた。
『……秋月、檜か?』
僕は眉をひそめた。やけに不機嫌な、低い男の声だ。
『FAVORITEのHinoki、だろう?』
やはり幸子の浮気相手が僕だと、検討をつけていたらしい。
僕は平静さを保ち、「どちら様ですか?」と訊き返した。
幸子の携帯はきっとまだ部屋にある。だから、この声の主が、カサイという男だろう。
相手は受話口で、ため息をついた。
『お前。俺の女と寝ただろう?』
低く凄みを効かせた声がスマホから発せられる。僕以外のメンバーは物音ひとつ立てず、固唾を飲んでいた。
「何の事ですか?」
『しらばっくれても無駄だ。こっちはそれなりの確証を持って電話してるんだ』
「……勘違いじゃないですか?」
僕はあくまでも、シラを切り通すつもりだった。
『は??』
声は更に怒りを帯びた。
「確かに。彼女と会って話す事は有りましたけど、それ以上は」
『しらばっくれても無駄と言っただろッ!? 何なら証拠を見せてもいいんだぞ!?』
ーー証拠?? 何言ってるんだ、コイツ。そんなのあるはずが無い。ただのハッタリだ。



