【ーー桜庭幸子】

「幸子からだ」

「えぇ??」

 陸と陽介も大袈裟に驚いている。

「……とりあえず、出るよ」

 ーー昨夜(ゆうべ)、何が有ったのかも聞いておきたいし。

「待てっ!!」

 親指でスワイプしようとすると、カイが咄嗟に僕の手を掴んだ。

「……多分それ、桜庭先生じゃない」

「え?」

 バイブ音が鳴る中、カイは早口で言った。

「今俺が言った事聞いて無かったのか??
 先生は昨日、財布も携帯も持って無かったんだよ?」

 今の時刻は午前十一時だ。

「今朝に、彼氏から届けられた……とか?」

「俺はそうは考えられない。昨日の先生の姿を見ていたら、多分ヒノキもそう思ったはずだよ」

 未だに続くバイブ音がカイの意見を色濃くする。

 相手が幸子なら、こんなにしつこくは鳴らさない。

「って事は、彼氏?」

「けど、何で男が檜に??」

 陸と陽介の疑問に眉を寄せ、僕は低く呻いた。

「心当たりは、有るよ」

 実際、そうで無ければいいと思いながら、僕は画面をスワイプした。

 カイの身振り手振りでハンズフリーにするよう言われ、右端を軽くタップする。

「……はい」

 電話の相手は何も喋らず、無言だった。