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「昨日、桜庭先生に会ったよ? 夜の十時半頃、だったかな?」

「え?」

 翌日。仕事の空き時間に、カイが何気なく言った。

「何でそんな時間に幸子が? どこにいた?」

 事務所の楽屋には陸と陽介も居るのだが、元カノの事をつい名前で呼んでいた。

「そこの繁華街。桜庭先生、靴も履かずにうろうろしてた」

 ーーえ?

「そうそう、俺らも一緒だったんだけどさ。彼女、顔に青あざ出来てたよ?」

「いやいや、青あざどころか。首に絞められた跡も有ったで?」

 ーーえ、え??

 聞けば聞くほど不安に襲われる。

「……あ、青あざって何で? 首絞められたって、靴も履いて無かったって??
 な、何ですぐ俺に言わねぇんだよ!??」

 怒って思わず立ち上がっていた。

「言わなかったんじゃなくて、言えなかったんだよ。桜庭先生、どうしてもヒノキには知られたく無いからって。
 本当は今日、今ここで言うのもNGなんだからな?」

「何で……っ」

 そのまま頭を抱え、元の椅子に座り込んだ。

「理由は俺からも訊いたけど、先生何も答えなかった。
 だからとりあえず病院にだけ連れて行って、先生の実家に送り届けた」