ボーダーライン。Neo【中】


 心臓を鷲掴みにされる思いがし、グッと胸を押さえた。

 慎ちゃんは足元に置いた黒のビジネスバッグを開け、中から二冊のノートを取り出すと、あたし目掛けてそれを投げつけた。

「きゃっ!?」

 バサッと音が鳴り、足元に見慣れたノートが落下する。

「ど、どういう事? 何で、慎ちゃんがあたしの日記」

 当然、内容(なか)を読まれただろう。

「そんな事はどうでも良い。俺はただ、鍵を探していただけだ」

「……かぎ?」

 何の、と訊きたくて、目を見張った。

 背後から忍び寄る寒さに、ただ置物の様に立ち尽くすほかない。

 彼は上着の内ポケットに手を入れ、四つ折りにされた紙切れを取り出した。

「ほら」

 そう言ってあたしに差し出している。

 これを見てみろよ、取りに来いよ、と彼の目が命令している。

 場の空気からそれを拒否する事など、出来なかった。

 全身の血が冷えわたり、動きが鈍くなる。

 それでも下唇を噛みしめ、あたしは恐る恐る彼に近付いた。

 心臓の音が太鼓の様に、体中に鳴り響いている。

 慎ちゃんから紙を受け取り、中を開いた。



《別れが辛くなるから眠っている内に帰ります。
 あなたの体が三万円だなんて……》



 ーーそんな、嘘だ……っ!



 あの夜、この手で書いた文字の一部を読み取り、手のひらのメモ紙がはらりと落ちる。