ぐちゃぐちゃに荒らされたリビングを見て、声が震える。

『サチ、落ち着いて。部屋が何だって?』

 いつになく真剣な声で、慎ちゃんが訊いた。

「……ごめ。今、バイトから帰ったら、部屋が荒らされてて。もしかしたら、泥棒かもって、思って」

 彼の優しさに涙が滲み出る。

『え? 泥棒?? ちょっと待って、課長に話して帰れるようにして貰うから!』

「え。帰っても大丈夫なの?」

 今すぐ帰って来てくれたらどんなに心強いだろう。

『バカ。緊急事態だろ? すぐに帰るから待ってろ』

「うん……っ」

 ーーやっぱり、慎ちゃんは優しい。

 通話を終えた携帯を握り締め、一旦深呼吸をする。

 慎ちゃんが帰って来てくれるのなら、安心だ。

 あたしは気持ちを落ち着け、スクッと立ち上がる。

 ストッキングを履いたままの素足に近い状態で、割れた食器類を踏まないように足を出した。

 とりあえず、通帳がちゃんとあるかどうかは確認しておこう。

 寝室へ行き、やはり部屋の乱雑さに顔をしかめる。

 洋服箪笥の引き出しも幾つかぶちまけられ、もう通帳は無いかもしれないなと途方に暮れた。

 しかしながら、床へ落とされた引き出しの中を探り、あれ、と眉をひそめた。

 ーー何で?

 あたし名義の通帳と、慎ちゃん名義の通帳、どちらもちゃんと中に入っていた。