「何で分かってくれないの?? 困難な状況全部踏まえて、それでも檜が良いって言ってるの!」

「……」

「お母さんはお見合い結婚だから、あたしの気持ちなんて分からないのよ!!」

 感情が高ぶり、遂には涙が滲み出る。

「もう帰りなさい」

 顔を背けた母に素っ気なく言われ、あたしは勢いよく立ち上がる。

「言われなくてもそうするよっ!! 行こっ、檜っ」

 彼の手を引き、追い返される形で実家を後にした。

 少しぐらいは、考えて貰えるものだと思っていた。

 ーーなのにあんなに頭ごなしに否定するなんて……お母さんに少しでも期待したあたしが馬鹿だった。

 この時のあたしの考えも、まだ甘く、どこまでも若かった。

 結婚は当人同士の問題だけでなく、両家を結び付けるものだから、親にとっても本人にとっても重大な節目になる。

 母は、臆病で寂しがり屋なあたしの性格を考えて、あたしが将来安心して過ごせる家庭を持てるように、と。親の愛情であたしを想ってくれていた。

 あたし自身がもう少し、母の気持ちを理解していたら。

 こんな結果にはならなかったかもしれない。

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