「さっきお父さんが訊いてた事だけど。
卒業後、結婚するとなったら当然一緒に住むわよね? どちらに住むおつもりですか?」
「え、あ。とりあえずは……彼女の、マンションです」
ーーああ、やばい。
母の眉がピクリと動くのを見て、あたしは後悔した。事前にこう言おうと口裏を合わせておけば良かった。
「そう。結婚式は、なさるんですよね?」
「それは。まだキチンと話し合っていなくて。……でもいずれはちゃんとするつもりです」
「いずれ」
「はい」
母は顔を曇らせたまま、ハァ、とため息を吐き出した。
てんで話にならない、そう思われてしまったのだろう。
檜に対する印象を悪くしてしまったのは、あたしに落ち度がある。
「一応幸子にも訊くけど。この子の親に挨拶はしたの?」
「まだ、だけど」
「そんな事だと思った」
母は檜に訊いても仕方ないと判断し、あたしを責めにかかった。
「あんたは結婚ってものが全然分かってない」
「……何でよ、」
語尾を強め、あたしは母を睨んだ。
「結婚して嫁ぐって事は相手の家に入るって事なのよ? 先に許して貰うべきはこの子の家の方でしょう??」
「な、そんなの分かってるわ。
だからちゃんと行くつもりだし、後も先も関係ないじゃない」



