「お母さん、そんな一方的に訊かないでよ! 檜が困ってるでしょ?」
「幸子は黙ってなさい」
場の空気は最悪だった。
やはり前もって、教え子と付き合っていると言っておいた方が良かったのだろうか?
でも、それを言ったらきっと会って貰えない。勿論、結婚も許して貰えない。
檜の年齢や肩書きを気にせず、彼の内面、人柄を見て欲しいと思っていたのに。
そんなあたしの願いは虚しくも潰えてしまった。
少しの間、沈黙が部屋を満たすが、助け舟を出したのは、母の隣りに座る父だった。
「……母さん、幸子の言う通りだ。そんな一方的に訊いたら可哀想じゃないか」
「だってお父さん、高校生なのよ!? うちの悠大よりも年下じゃないの!」
「まぁまぁ。そう目くじらを立てて怒る事も無いだろう? 一旦、お茶でも飲んで落ち着きなさい」
憤慨する母を、父は必死に宥めている。
あたしは俯き、静かにため息をついた。
「ちょっと……」
そう短く言い残し、母は席を外した。ガラガラと閉まる引き戸の音を、幾らか安心した気持ちで見送る。
「檜くんって言ったかな? うるさくしてすまないね?」
「……いえ」
「あれはちょっと気が短くて」
言いながら、父は初めて笑顔を見せた。



