あたしは母から目を逸らし、真顔で檜を見た。

 檜の表情はどこか固く、緊張しているのが見て取れた。

「それじゃあとりあえず。お名前を聞いても良いかしら?」

「秋月、檜です」

「ひのき? あら。どんな字を書くのかしら?」

 木の名前に使われる漢字一文字です、と言い、彼は僅かに頬を緩ませた。

「へぇ。個性的ねぇ?」

「よく言われます」

「檜さんは、ご姉弟はいるの?」

「あ、いえ。……僕は、一人っ子なんで」

「あら。じゃあご長男なのねぇ?」

「はい」

 母親と彼がポツポツ会話する中、斜向かいの父に目を向けると、思った通りの仏頂面だった。腕を組んだままで眉間に皺を寄せ、顔を強張らせている。

「……あの。今、幸子さんとは結婚を前提にお付き合いをしていて。
 出来れば、来年の春には結婚して、一緒に暮らしたいと思っています」

 膝の上で拳を握りしめ、檜は両親を見て真摯に告げていた。にも拘らず、母は口元を引きつらせ、適当に相槌を打った。

「失礼ですが、ご職業は何を?」

「……え」

「見た感じだと……学生さん、ですよね?」

「あ、はい」

「大学生、の方かしら? どちらの大学?」

「え? あ、いえ…」