◇ 日記8

 むせかえる様な金木犀の香りが空気中に漂う、十月上旬の日曜日。

 あたしは檜を連れて、実家へ帰る事にした。彼があたしの両親に挨拶する為だ。

 部屋のインターホンが鳴り、着いた檜を出迎える。あたしは彼の見てくれにぱちぱちと目を瞬いた。

 檜の茶色い髪が、黒髪になっていた。

「元々地毛であの色だからどうしようか迷ったんだけど。明るいの目立つし、一応ナリだけでもちゃんとしておこうと思って」

 そう言って彼は頭を触っていた。

 正直、彼の心遣いが嬉しくてたまらなかった。あたしの親に認められたいと、切に思ってくれるところに愛情を感じた。

 檜を助手席に乗せて車を走らせ、電車の駅で言えばたった五駅先の実家へ到着する。

「お帰り〜、幸子。お盆以来ねぇ?」

「うん」

 まだまだ若々しく、溌剌(はつらつ)とした母が、嬉しそうに玄関まで駆けつけてくれる。

 事前に、彼氏を連れて帰ると言っておいた為、会うのを楽しみにしていたのだろう。

「初めまして」

 しかしながら、檜の挨拶に、母の笑みが不自然に固まった。