ボーダーライン。Neo【中】

◇ ♂

「え。CM? 何だっけ、それ」

 片方の手でケータリングのお菓子をつまみながら、ふと左手に持つ雑誌から目を上げた。

「先月ちゃんと説明しただろう? 口紅だよ。化粧品の」

 ーー化粧品?

 僕は目を上げ、記憶を辿る。先月のあの繁忙期に恐らく説明を受け承諾したのだろうが、覚えがない。

「共演者は女優の笹峰優羽さん」

 言いながら竹ちゃんが持っている手帳に目を落とす。

 ーーああ、あの子か。そういえば最近よく顔を合わせるな。



 正月から一週間を過ぎた午後。先日のバラエティー番組の収録の様に、今日の撮影も僕ひとりだ。

 番組スタッフから召集がかかるまでの間、僕はマネージャーの竹ちゃんと共に控え室で待機していた。

「化粧品のCMって。俺、まさかされる側じゃないよね?」

 僕は苦笑いを浮かべ、突っ立ったままの竹ちゃんを見上げた。

 まさか、と、彼も合わせて微笑する。

「される側じゃなくてする側だよ?」

「するがわ??」

 そんな技術は持ち合わせていませんと一瞬呆然となるが、竹ちゃんは、大丈夫、大丈夫、と眉を下げて笑った。