美波さんも同様に赤面し、信じられないと言いたげに手で口元を覆った。
「やだもう、サチってばっ! 一体何やって……」
再度、信じらんない、と呟き、美波さんは頭を抱えている。
「そんなんで葛西さんと結婚って、うまくいく筈無いのに」
「…….かさい?」
初めて聞く名前だ。
「え? ああ、うん。サチのね。婚約者」
「ふぅん」
ーーカサイ。……カサイ、か。
「サチがそんな大胆な事するなんて。会って気持ちが戻っちゃったって、そういう事なのかな」
幸子を思い、しんみりと呟く美波さんを見て、僕は正直に告げた。
「彼女の方はどうか分からないけど。
少なくとも、気持ちを戻されたのは俺の方でした」
「え?」
「まぁ、それでも。本当にもう、終わった事ですけど」
最後に会ったあの結婚式での握手を思い出していた。
幸子は昔を思い、哀愁じみていたが、幸せになろうという意思で笑みを浮かべていた。
「彼女の結婚式って、来月ですよね?」
「え? ええ。六月十七日よ?」
「そっか……」
ーーもう一ヶ月も無いんだ。幸子はもうじき他の男のものになる。人妻に。
自分に言い聞かせ、天井を仰ぎ見た。



