恋愛ネタには付き物である常套句に、僕は苦笑する。
「それはご想像にお任せします」
「そうですか。ありがとうございました」
そう言って美波さんは笑い、机上の録音機を止めた。
取材が終わり、僕以外のメンバーと美波さんが昔を思い出して談笑する中、付き添いのカメラマンが先に撮影室から出て行く。
「檜くんとちょっと話したい事が有るんだけど。今時間貰えるかな?」
「え?」
不意に、美波さんから話を振られ、僅かに動揺する。彼女と二人で話す時は、大抵幸子に関しての内容になるからだ。
僕はメンバーと竹ちゃんに断りを入れ、仕方なく撮影室を後にした。
自動販売機の置かれた休憩室で、再び美波さんと向かい合わせに座る。
「サチから全部聞いたよ? 去年のクリスマス、会ったんだってね?」
「え、」
美波さんの睨むような視線に、瞬間、ギクリとなった。
まさか今ここでそれを訊かれるとは思わなかった。
「全部って? 全部??」
「そうよ?」
僕は幸子と再会したあの夜の事を思い出していた。
偶然出くわした彼女の婚約指輪を拾い、部屋へ連れて帰り、ベッドの上で抱き合った。
若干、手に汗を握り、それを膝の上で擦り付けた。



