「……とにかく。俺の答えは考えるまでもなく、NOだから」
「……」
「あと。ヒノキが決断するまで、陸と陽介には知らせない。それで良いよね?」
「……ああ」
そう言って海外活動の話は、一時保留となった。
翌日。新曲リリースに際して、雑誌の女性記者である美波さんが、事務所を訪れた。彼女と顔を合わせるのはおよそ五ヶ月ぶりだ。
今月二十日に発売した新譜が、友人の結婚を祝福する歌詞になっている為、メンバーそれぞれが結婚願望について問われている。
「では、最後にHinokiさん」
「はい」
「結婚についてどう思いますか?」
今“結婚”の単語を耳にして、思い浮かぶのは幸子の事だ。
しかし小型の録音機が回る中での応答なので、慎重に言葉を選ぶ。
ローテーブルを挟んだソファーで向かい合わせに座り、僕は「そうですね」と言って作り笑いを浮かべた。
「結婚っていうのは、ひとつの契約だと思っています」
「と言うと?」
「好きな人と家族になる為に、新しいライフスタイルを築く、と言うよりは。
もっとシンプルで、その人の将来をただ独占出来る、その権限を得るものだと僕は思います」
「なるほど。ちなみに今、独占したい人はいらっしゃいますか?」



