ボーダーライン。Neo【中】


「今の。マンネリ化した生活環境じゃ駄目なんだ。どうやっても埋まらない」

「……何か刺激が欲しい、夢中になれる事を見つけたい、そういう事か?」

 シンプルに言えばそうだ。けれど、この胸に居座る寂寥感は、そんな簡単な言葉では言い表わせない。

 僕は眉を寄せたまま、口を閉ざしていた。

「それが海外には有るって? ヒノキはそう言いたいのか?」

 肯定も否定もせず、僕はカイに目を向けた。

「少なくとも。今のライフスタイルを変えれば、新しい出会いも有るし、得るものも沢山有ると思う」

「そうしたらその空洞は埋まるのか?」

「……。分からない」

 カイは苦々しく眉を寄せ、苦笑した。

「“分からない”じゃない。何がどうなれば満たされるのか、ヒノキはちゃんと分かってる。
 それが叶わないから、偶然舞い込んだこの話に、ただ逃げてるだけだ」

 図星だった。

 指を差して言うカイの青い瞳に、やはり見透かされていると感じた。

 僕はぐうの音も出ず、口を結んだままでいた。

 何がどうなれば満たされるのか……。

 それはつまり、あの頃のように愛しい彼女が隣りで微笑んでいてくれる事、これが答えだ。

 幸子のいない人生を何かで紛らわせたい。その感情が、僕の内部(なか)で日に日に大きく膨らんでいた。