「今の。マンネリ化した生活環境じゃ駄目なんだ。どうやっても埋まらない」
「……何か刺激が欲しい、夢中になれる事を見つけたい、そういう事か?」
シンプルに言えばそうだ。けれど、この胸に居座る寂寥感は、そんな簡単な言葉では言い表わせない。
僕は眉を寄せたまま、口を閉ざしていた。
「それが海外には有るって? ヒノキはそう言いたいのか?」
肯定も否定もせず、僕はカイに目を向けた。
「少なくとも。今のライフスタイルを変えれば、新しい出会いも有るし、得るものも沢山有ると思う」
「そうしたらその空洞は埋まるのか?」
「……。分からない」
カイは苦々しく眉を寄せ、苦笑した。
「“分からない”じゃない。何がどうなれば満たされるのか、ヒノキはちゃんと分かってる。
それが叶わないから、偶然舞い込んだこの話に、ただ逃げてるだけだ」
図星だった。
指を差して言うカイの青い瞳に、やはり見透かされていると感じた。
僕はぐうの音も出ず、口を結んだままでいた。
何がどうなれば満たされるのか……。
それはつまり、あの頃のように愛しい彼女が隣りで微笑んでいてくれる事、これが答えだ。
幸子のいない人生を何かで紛らわせたい。その感情が、僕の内部で日に日に大きく膨らんでいた。



