「ヒノキが音楽一筋にこだわる気持ちはもちろん理解できるよ? まだイギリスにいた頃から、色んな仕打ちに耐えてた事も、日本に来てから感じたストレスも、全部Star・Blacksの歌を励みに、発散していた」
「……ああ、そうだ」
僕は顔をしかめたまま黙り込み、カイの台詞を待った。
「……さっきヒノキは、音楽以外の分野で活動したら駄目だと言ったけど。俺としては、その意見は間違ってると思う。ヒノキのは単なる独りよがり、……自己満だよ?」
ーー自己満?
「は? 何でだよ?」
「俺たちがここを離れたら、陸と陽介はどうすると思う?
例え一年だけと決めていても、きっと音楽以外の仕事に染まってくる。そうしたら俺達と同様に、そこから抜け出せなくなる。
いつか皆がバラバラになるよ?」
僕たちは互いに意見を譲らなかった。
カイは青い瞳を細め、僕の裏側にある本心を探ろうとしている、そう思った。
僕は仕方なく嘆息し、胸を押さえて本音を吐き出した。
「……ずっとここに。埋まらない空洞が有るんだよ」
「空洞?」
カイは厳しい目付きから一転、元来の穏やかな顔付きになった。



