ボーダーライン。Neo【中】


 それに、何よりも、ここ最近感じている虚しさや侘しさを、音楽に没頭する事で埋めたいと思っていた。

「……今のままじゃ駄目なんだよ」

 僕はカイから目を逸らし、手にしたままのコーヒーを見つめた。

「駄目? 何がどう駄目なんだよ?」

 ーー何がどうって……。

 僕は眉間をしかめ、少しの間、思案する。

 カイは続けて言った。

「俺達はデビュー当時から音楽だけで頑張ってきて、今少しずつ幅を広げて来てる。
 音楽以外の分野でも活動して、知名度を上げて、また曲を作って売る。
 既にFAVORITEの人気は不動だし、うまくいってるよ」

「いや、違う」

 僕は再びカイを見つめ、その意見を一蹴(いっしゅう)した。

「俺らは音楽以外の分野で活動したら駄目なんだ。映画やドラマ、バラエティーに出るのが当たり前になれば、いつか自分達がロックミュージシャンの本分を忘れてしまう。
 曲もたまにしか作らなくなる」

 カイは僅かに眉をひそめた。そのまま沈黙するので、僕は更に言葉を重ねた。

「確かにFAVORITEは、もうある地位までは登り詰めてると思う。
 だからこのまま日本で活動していても後は落ちるだけだ」

「いや。まだ伸びしろはあるよ」

 そう言ってカイはコーヒーを飲んだ。