「無論、この提案に俺は乗り気じゃない。だから万一キミらが受けるとしても、契約は一年だけと約束してある。
一年が終わって契約更新したいなら、その時考える、とな?」
「え、社長は乗り気じゃないんですか!?」
カイの安堵した口振りを聞いて、僕も一旦は息をつく。
「ああ。海外での活動、と言うと聞こえは良いが、海外左遷ってイメージも有るからな。
正直、売れている今、日本を離れるのは得策じゃ無いと思う」
「じゃあ……」
「だけど。以前竹原から聞いた様に、檜が理想とする音楽だけのアーティストって意見も無視出来ない」
僕はそこでハッと息を飲んだ。
同時に、反射的に振り向いたカイと目が合う。
社長の言葉は、以前僕がこぼしていた“この先のビジョンに対しての迷い”、その物だった。
「今回の話を受けるかどうか。一応二人揃っての希望らしいが、どちらか一人でも構わないと聞いている。
受けるとすれば、FAVORITEとしての活動は休止になるから、当然色々と不具合は出てくるだろう。
けど、同時に。Star・Blacksが目をかけてるバンドと組むって事は、彼らとの繋がりも懇意にするって事だ。
彼らを通じて、多方面での活動も可能になる」
社長の言葉を聞いて、なるほど、と陶酔する想いが芽生えた。



