ボーダーライン。Neo【中】

「そっか。けどそれなら俺に言っててくれても良かったのに」

「言うって?」

「……いや。知らなかっただけに驚いて」

 ああ、とあたしは頬を緩めた。

 卵焼きに少しの醤油を垂らし、ごめんね、と謝る。

「慎ちゃんに飽き性なやつだって、思われたくなかったの」

 彼は未だに箸を止めたまま、眉を寄せる。

「それに親にも、葛西さんには言わない方が良いって口止めされてたから」

「なんで?」

「うん。なんか、仕事に対しての忍耐力がないと思われるから、言わない方が良いって、お母さんが」

 勿論、嘘だ。

 母が心配して口止めしたのは、教え子と交際し罷免(ひめん)された事だ。

「そっか」

 母を引き合いに出した事で腑に落ちたらしく、彼は分かりやすい程に安堵していた。

 あたしは先にご馳走さまと手を合わせ、食器を下げるために立ち上がる。

「……あ、そう言えば」

 急に何かを思い出した口調で、慎ちゃんが明るい声を出した。

「その西陵高校って、あのFAVORITEのHinokiとKaiの母校なんだって?」

 ガチャン!ーーと。

 陶器同士のぶつかる鋭い音が鳴る。

 水を張る前のたらいの中にうっかり手を滑らせ、食器を落とした。