ボーダーライン。Neo【中】

斎藤先生の名前を口にしようとして、途中でやめる。確か結婚から姓が変わったはずだ。

「高村先生とか、田崎先生に会ったの?」

「え? ああ、うん」

 慎ちゃんは昨夜を思い出すように目の球を宙に上げる。

「そっか」

 とりあえず、ひと口お茶を飲み込んだ。

 今更、隠す手立てもないあたしは、先手を打つ事にした。

「確かに。あたしはその高校で1年半ぐらい英語を教えていたわ」

「そう、なんだ?」

 意外に満ちた目で、彼があたしを見つめ返した。

 知られたくないのは、教師をしていた経歴ではない。教師を辞めた()()だ。

「何で辞めたの?」

「うん?」

「英語教師」

「……合わなかったから」

「合わない?」

 慎ちゃんは納豆をご飯に移し、細い粘り気のある糸を箸に巻きつけるが如く手を動かした。

「憧れてなった職業だっただけに、高望みし過ぎてたって言うか。結局はこんなものかって思い知らされたし。生徒にはなめられるし。何となく、幻滅しちゃって」

 理由としては有り得なくもない具合の、曖昧さを含んで答えた。

 下手に嘘で盛ると勘繰られる。