ボーダーライン。Neo【中】

思い出してはいけないのに、あの刺激がどうしても忘れられない。

 あたしは欲しがっていた。夢で慎ちゃんと見間違えるほど、彼を求めていた。

 檜のくれる熱っぽい眼差しも、脳に心地よい痺れを起こすあのキスも、体の奥から突き抜けるあの快感も。

 許されるならもう一度この身で味わいたい。

 檜の全てが体に刻み込まれ、まるで麻薬のようだ。

 平凡な日常に快楽が足りなくて、禁断症状のごとく求めてしまう。

 檜と肌を合わせたい、ふとした瞬間に貪欲なあたしが顔を出し、ハッとする。

 会ってはいけないと思っていた。会えば絶対に欲しくなる。

 そうなればきっとタガが外れ、体だけ繋ぐセフレの関係に身を落とす。

 勿論、合い鍵を返さなければいけない事は分かっていた。

 檜に会いたい気持ちも、今更だが自覚している。

『俺はまた幸子に会いたい。駄目か?』

 電話越しに聞いた彼の言葉を思い出し、あたしは唇をキュッと噛んだ。

「いらっしゃいませ~」

 来店客に掛ける奥さんの声が、突如としてあたしを現実へと引き戻す。

 あたしは頬を数回平手で打つと、いらっしゃいませ、と顔を上げ、緩んだ気持ちを引き締めた。