ーーやっぱりもう少し、時間を掛けて打てば良かったかな。
幸子を思い出すと、決まって物憂げな吐息がもれた。
カイの言う通り、ストーカーじみているかもしれないが、幸子に会いたくてたまらない。出来る事なら部屋に閉じ込めて、ずっと側に居させたい。
今なら間違いなく、未練がましい男の、切ないラブソングが書けそうだ。
「そう言えば。檜とはそういう話、した事無かったよな?」
「え?」
彼を見つめ、ふと足が止まる。
「あ、いたいた。檜っ!」
ちょうどその時。
前方の階段を昇ってくる、マネージャーの竹ちゃんに声を掛けられた。
竹ちゃん、と呟きを漏らすが、彼と透さんは互いに会釈し、新年の挨拶を口にした。
「……じゃあ檜。またな?」
「あ、はい」
片手を挙げて去って行く彼へ、僕は軽く会釈し、微笑んだ。
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