「さっき言った元カレの事。怒ってるの?」
やがて檜は腕を緩め、あたしを解放する。
檜はいつも強気な眉を下げ、不安な目をしていた。
「大丈夫だから」
そう言って、あたしは檜の背に手を回した。
「あの人とは偶然会っただけだから。心配しないで?」
「……うん」
彼はさっきよりも力を込めて、あたしを抱き締め返した。
卒業までの半年間。一寸たりとも気を抜けない。
檜との交際が、結婚という名のステージへ進めるかどうかは分からないが。
ここで終わらせる訳にはいかないの。
この時のあたしは、確かにそう思っていたんだ。



