「あたしに何か用? お店番は?」
ーーお願い、檜。
今は学校なの。普通に、生徒の顔で何でも無いと言って立ち去って?
さっき圭介からも釘を刺されたばかりなの。
あと半年、バレる訳にはいかないの。
あたしは自然らしさを装い、首を傾げた。硬い表情のままで、彼が何も言わないので自分から立ち去ろうと思った。
「どうしたの? 用が無いならあたしは戻るわよ?」
とりあえずは職員室へ行こうと決めて踵を返した。
立ち尽くす檜を置いて校舎へ入ろうとした時。
急に右手をグッと掴まれた。
「あ、秋月く」
ーーうそ……っ、
思わず息を飲み、いきなり引かれた手から、校舎内へ向かう檜の背中へ視線を移した。
同時に胃を圧迫されそうな不安に促され、あたしはしきりに周囲を見回した。
空き教室へ入るまで誰の姿も見かけなかったのが、あたしにとって唯一の救いだった。
バサッと袋に入った焼きそばが床にぶつかった。
あたしは檜に抱き締められていた。
その胸元に顔を埋め、檜の鼓動に耳を傾けた。
「どうしたの? 檜」
彼の肩に手を触れ、あたしはやんわりと話し掛けた。



