「……それにあれぐらいの男子はさ、幸子みたいに。
ちょっと大人な女性に憧れる年頃なんだよ。……自分の存在がどんな影響を与えるかなんて、全く考えてない」
「そんな事…….っ!」
思わず顔を上げ、声を荒げた事にハッとした。
「そんな事、ないよ。檜は。あたしの立場とか、ちゃんと考えてくれてるし。
それに一時の感情とか、そんな簡単なものじゃない……っ」
必死になるあたしの隣りで、圭介は小さなため息をついた。
「あと、ちょっとなの」
「え?」
「彼、三年生だから。あと半年、隠し通せたら……」
木々を吹き抜ける風で、パーマがかったあたしのボブヘアーがふわりと揺れた。
隠し通した所で、先の見通しは暗いかもしれない。そう知りながら何も言えずに俯いていた。
「……そっか。まぁ俺は。頑張れとしか、言えないけど」
そう言って圭介は寂しそうに笑い、持っていたお茶を静かに傾けた。
正門へ去って行く圭介を見送った時。
「先生っ」と後ろから呼び掛けられた。
声を聞いて、檜だと分かる。
さっきの事を気にしているんだと思ったが、あたしは平然と教師の顔で振り返った。
「あら、秋月くん。どうしたの?」
檜は目を見張り、口を噤んでいた。手には焼きそばが入っていると思しき、白いビニール袋を提げている。



