ボーダーライン。Neo【中】


 焼きそばを食べ終え、お茶で喉を潤していると、不意に圭介が真面目な口調で切り出した。

「さっきの彼の事だけど。いつから付き合ってんの?」

「……去年の、クリスマスイブだよ」

「そっか」

 あたし達の間に流れる沈黙を、ガヤガヤした祭りの雰囲気がそっと埋める。

「幸子は一般的な分別があるから分かってると思うけど。
 今の状況は幸子にとって不利じゃないのか?」

 目線を足元に据えたまま、あたしは僅かに口元を緩めた。

「だってさ。幸子、すげーこの仕事に就きたがってたじゃん?」

「……そうだっけ?」

「そうだよ。公務員だからボーナスが良いとか福利厚生が充実してるとか、色々理由つけてたけど。
 教鞭とる事に憧れてたし、担任としてひとクラス受け持つ事になった時も、意気込んでた」

 あたしはキュッと口を結び、ペットボトルのお茶を両手で握り締めた。

「何より教員免許取る為に、すげー勉強してたじゃん?」

「うん。そうだね。大学受験より勉強した気がするし」

 両手で包み込んだペットボトルが、手の平の体温で、じわりと熱を帯びてくる。

 あたしは目を細めたまま、徐々にぬるくなる液体を見ていた。

「だからさ。俺は今一時の感情で、苦労して得た立場をふいにするのはどうかと思う。
第一バレた時のリスクが高すぎる」

「……そう、だね」