ボーダーライン。Neo【中】


 上河さんは今でもあたしと檜の交際を疑っているだろう。

 檜には会いたいが、今は諦めよう、そう思った時。

 後ろからポンと肩を叩かれ、幸子、と耳に懐かしい声がした。

 あたしは振り返り、目を見張った。

「うそ、圭介っ??」

「久しぶり?」

 黒いフレームの伊達眼鏡を掛けた彼は、去年の夏に別れた元カレだ。

「え? え? 何でここに??」

 あたしは目を瞬き、指まで差していた。

「俺の従兄弟、ここの生徒だって前に言わなかったっけ?」

 そう言って圭介は意地悪くニヤリと笑った。

 ーーあ。懐かしい。この笑顔。

「そっか、それで……」

「……と言っても。幸子が先生してるから来たんだけどな。その仕事ぶりを観察しに」

「アハハっ」

 あたしは俯きながら笑い、流れる髪を耳にかけた。

 正直、嫉妬で気が変になりそうだったので、ここで圭介と会えて本当に良かった。

 ポツポツと当たり障りの無い会話をし、圭介が「あ」と近くの露店に目を向けた。

「幸子、今ひま? 焼きそば買って一緒に食べないか? 久しぶりに話もしたいし」

「え。あー……うん」

 一瞬、躊躇いはあった。

 でもあの上河さんがいる手前、いい機会だとも思えた。