上河さんは今でもあたしと檜の交際を疑っているだろう。
檜には会いたいが、今は諦めよう、そう思った時。
後ろからポンと肩を叩かれ、幸子、と耳に懐かしい声がした。
あたしは振り返り、目を見張った。
「うそ、圭介っ??」
「久しぶり?」
黒いフレームの伊達眼鏡を掛けた彼は、去年の夏に別れた元カレだ。
「え? え? 何でここに??」
あたしは目を瞬き、指まで差していた。
「俺の従兄弟、ここの生徒だって前に言わなかったっけ?」
そう言って圭介は意地悪くニヤリと笑った。
ーーあ。懐かしい。この笑顔。
「そっか、それで……」
「……と言っても。幸子が先生してるから来たんだけどな。その仕事ぶりを観察しに」
「アハハっ」
あたしは俯きながら笑い、流れる髪を耳にかけた。
正直、嫉妬で気が変になりそうだったので、ここで圭介と会えて本当に良かった。
ポツポツと当たり障りの無い会話をし、圭介が「あ」と近くの露店に目を向けた。
「幸子、今ひま? 焼きそば買って一緒に食べないか? 久しぶりに話もしたいし」
「え。あー……うん」
一瞬、躊躇いはあった。
でもあの上河さんがいる手前、いい機会だとも思えた。



