ーー何なの、あたしの彼氏に気安く触らないでよ。
突如として湧き上がる怒りで、頭がどうにかなりそうだった。
露店の通りは、ガヤガヤと人の声で賑わっているが。
彼らの声はひときわ大きく耳へ届いた。
「てか、檜くんは焼きそば焼かないの? 何で会計?」
「上河、今それ言うな。隊長がうるせーから」
「たいちょう?」
「おねーさん、檜は焼きそば作れないんですよ~?」
「だからうるせーって」
「アハハっ、そうなんだ? でもなんか、ぽいぽい~」
指を差してケラケラ笑う上河さんをスルーし、檜は後ろの女子から受け取った焼きそばを渡している。
「ほれ、散った散った!」
手のひらを返す檜の態度に、彼女は「ツレない~」と尚も絡んでいる。
終いには鞄から携帯を取り出し、一緒に写メを撮ろうと言い出した。
彼女の図々しさに、あたしは腹を立てていた。
いい加減にして欲しい、と思うと共に唇がわなわなと震え出し、あたしはキュッと唇を噛んだ。
鉄板から離れた場所に立つ檜をただ真っ直ぐ見ていると、「さっちゃん先生っ」と呼ばれる声に気が付いた。
あたしは羞恥心からサッと目を逸らし、聞こえない振りを決め込んだ。
正直なところ、あの子に会うのが嫌だった。



