「…もしもし」 『あの、羽山裕也さんですね?』 「え、ハイ…」 女の声だった。 どこかで聞いた、その声は微かなざわめきの中で、こう言った。 『T病院の者ですが、持ち出したカルテを返してください』 その時、俺は無意識にテレビ画面を見た。 晴彦が気になると言ってカメラを回していた病院の四階にある、高さ10~15cmの横幅が1mほどの細い窓。 ズームによって映されたそこに、生白い手がびっしりと張り付いていた。 END