私の視線に真っ直ぐ入ったきたのは、叔父がウッドベースを抱え弾く姿だった。
その楽器は、叔父の背丈を平気で越える。
まるで叔父と、もう1人人間が居る様だ。
幼い頃の私は、叔父と並ぶウッドベースの圧倒的な大きさに怯えてばかりいた。
いつからだったのだろう。
怖がるどころか、見惚れるようになったのは。
低音が心地好い。
心地好いのに、胸をぎゅうっと強く鷲掴みにして離さない。
叔父のベースは、いつでも矛盾していて、不思議だ。
じっと部屋の隅で、叔父の演奏に酔いしれる。
しばらくすれば、徐々に音が止んでいく。
すると、叔父が水分を補給しようと、こちらを向いた時に、ようやく初めて2人の目が合う。
叔父は、声にならない声で驚いた。
そりゃ、今まで1人きりだと思い込んでいた部屋に突然、人が居たら、誰だって怖い。
「澪ちゃん。帰ってたのか」
「うん! そしたら、理ちゃんが来てるって、お母さんが言うから、慌てて聴きに来た」
父親の弟さんである私の叔父で、親戚の中でも「理ちゃん」という愛称で親しまれている。
すると、理ちゃんが興奮気味な私に、ふっと口元を緩める。
「本当に『聴きに』来たのか?」
「え」
「本当は、それだけじゃないんだろう?」
理ちゃんは口角を、ニヤリと上げた。
そして、私が何かを言う前に、弦に手を添える。
それから全てを感じ取り、私はオルガンピアノの前に飛び掛かるようにして座った。
ベースとピアノのデュオが、唐突に始まる。
2つの音だけが、絡んで、時に反発し合って。
流れる時間の存在なんて、そんなものは忘れてしまって。
ただこの空間だけに夢中になってしまうのは、いつも通りのこと。
私たちはひたすら、音を鳴らし続けた。



