遠くから、パタパタと誰かが走ってくるような音が聞こえてくる。

「影……愛!どうしたの?」

タイミング良く、佐倉くんが現れた。

「酷い…!!酷いよ藍ちゃん…。」

影石愛が目に涙を浮かべて、私を睨む。

「落ち着いて。何があったのか話してくれるかな?」

佐倉くんが影石愛の傍へ駆け寄る。

「私、藍ちゃんに何もしてないのに…!蛍貴を取られたくないからって…、蛍貴に近づくな、なんて酷いよ。どうしてそんなこと言うの…?」

違う。それは影石愛がたった今、私に言った言葉だ。
でも、どう説明したら良いか分からない。影石愛が私に酷いことをしたと言ったら、あの写真をばら撒かれてしまう。

「湖川さん、本当なの?」

佐倉くんが真っ直ぐな瞳で私を見つめる。

「私は…、」

上手く言葉が出ない。何かを言わなければならないのに、何をどう伝えれば良いのか、分からない。

「佐倉くん、違います…。私はただ──」
「蛍貴、騙されないで。藍ちゃんは、佐倉くんを想う気持ちなんて、少しもないんだから!」

影石愛が、佐倉くんに訴えかける。

「そんなことは、ずっと前から分かってるよ。」

佐倉くんが声のボリュームを落として言った。