美波が言うには、新しいバーテンの子が入ってからまだ十日足らずらしいが、ETOILE(エトワール)は毎夜女性客で賑わっているらしい。

 カウンターのスツールに腰を据え、黒縁眼鏡のマスターが注文を取りに来る。

 美波はお酒を頼むよりも、目的のイケメンくんについて訊ねた。

「あれ? そう言えばさっきまでカウンターに居たんだけど……。あ。

ああ、いたいた」

 どうやら二人してしゃがみ込んでいるらしく、座っているあたし達からは見えない。

「こら、ツーペア! 何座り込んでんだ、こっち来い」

「マスター、その子達が噂のイケメンくん?」

 マスターの視線に倣い、美波がカウンターの奥を見て言った。あたしも何気なくそちらに目を向ける。

 ふと気付くと、他の女性客もカウンターの奥を見て、クスクスと笑っていた。

「そうそう。二人とも桃林の三回生みたいなんだけどね。

ほら、早く来い! ツーペア!」

 へぇ、大学生なんだぁ、なんて思ったのも束の間。知った顔がそこに立っていた。あたしは表情を固め、言葉を失った。

「いらっしゃいませ」

 バーテンの制服を感じ良く着こなした、二組の秋月 檜と三組の秋月 カイだとすぐに分かる。