内田くんにいたっては、とっくにお弁当の箱をビニールに閉まっていたらしく、隣りの彼女から空箱を受け取っている。

「あたしの場合は」

 地を見つめ、あたしは穏やかに言った。

「あの人からそう聞いてたから。受け売りだけど、ね」

 水城さんは表情を固め、あの人って、と続けた。「檜? 」と首を傾げて訊ねられる。

 問いに笑顔のまま、無言で頷いた。

 彼の名に皆が口を噤み、暫時、沈黙してしまう。

 不意に隣りの話し声が近くなった気がして、試しに目を向けると、隣りのベンチに子供連れの若い夫婦が座っていた。

「奈々ね。あの時」

 口を開いた水城さんは神妙な顔付きで続けた。

「檜と付き合ってたのが先生って知った時。正直凄くムカついたの」

「……水城さん」

「檜に未練があるからどうとかじゃなくて。ただ単純に騙された、嘘をつかれたって事が許せなくて」

 彼女に対して申し訳なく思い、あたしは「ごめんなさい」と言って俯いた。

 嘘をついている事に多少の心苦しさは有っても、"あの時"は自分たちの保身が一番だった。

 水城さんは慌てて、ううん、とかぶりを振る。

「謝んないで? 今なら分かるの。そうするしか無かったんだ、って」

 真顔で彼女を見つめると、水城さんは不意に、あ、と何か思い付いた風に言う。