◇ 日記 2

 1

 クラスの親睦を深める事を目的とし、六月に野外活動なる宿泊イベントがあった。

「え、さっちゃん先生のカレシって商社マンなんだ?」

「そうだけど。あなた達、‘さっちゃん先生’じゃなくて、‘桜庭先生’、でしょう?」

 五人の女子生徒達は、注意を聞いてか聞かずか次々と質問を投げて来る。

 辺りはグツグツと煮えるカレーの匂いが漂っていた。

 炊事場の隣りに位置した、屋根と長机、長椅子だけの簡易な建物の下。

 時刻は丁度、夕食前の六時だ。

 担任としてそれぞれの班を見回っていると、あたしは手持ち無沙汰にする女子生徒達に捕まっていた。

「ねぇね、先生のカレシってどんな人? 優しい? かっこいい?」

 若い女の子が、友達感覚でガールズトークに混ぜてくれるのは有り難い気もしたが、あたしは苦笑いし、「まぁ、それなりに」と言葉を濁した。

 実のところ、誰であっても彼氏の話題は出来るだけ避けたいと思っていた。

 何故なら、二つ年上の彼氏、圭介(けいすけ)との仲が上手くいっていないからだ。

 あたしは現在進行形で浮気をする彼氏を思い出し、溜め息をついた。