「いや、そんな事もないぞ? 手立てはある」

「どんな??」

「俺ら卒業生なんだから、学校訪問して斉藤あたりに聞いたら何とかなるかもしれない」

 彼氏の言葉に彼女は声を弾ませ、そっかぁ、と嬉しそうな顔をする。

 ふたりの会話に耳を傾け、今度はまじまじとその風貌を観察した。

 彼女の方は胸元まで伸ばした髪をくるくると巻き、ニーハイのブーツにミニスカートで仕草のひとつひとつが女らしい。

 一方彼氏の方は茶髪をワックスで感じよくまとめ、カジュアルなコートにショートブーツ、そして話す口調は穏やかそのもの。

 二人を見るのに必死になりすぎて、出て行くOLさんへ、ありがとうございました、と言うのを忘れたぐらいだった。

 もしかして、と急に閃いた。

 注文が決まったらしく、ミニスカートの彼女は笑顔で、すみません、と言い近付いて来た。

 目が合った瞬間、あ、と口を開け、指を差される。

 やっぱり、と思った。

「え? うそっ!! さっちゃん先生!??」

「え、マジ??」

 彼氏も彼女同様に近寄り、目を見張る。

「内田くんと水城さん、よね?」

 あたしは普段の笑みでそう訊ねていたが、内心はこんな偶然があるのだな、と心底驚いていた。

 きっと今朝仕事に来る前に読んだ日記のせいだろう。

 かつての教え子である、二年二組の内田(うちだ) 勇介(ゆうすけ)くんと水城(みずき) 奈々(なな)さんは、檜にそれなりの影響を及ぼし、深い関わり合いを持っていた。

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