ボーダーライン。Neo【上】

「それは……っ。どういう意味? 前みたいな、事務所スタッフって。ただそれだけの関係に、戻る……っ、そういう事?」

 僕は罪悪感から彼女の顔が見れず、スマホを見たまま頷いた。

「そっか……じゃあ」

 茜は鞄の中からピンク色のキーケースを取り出し、銀色の鍵を外した。

「この鍵は返しておくね」

 パチンと音を立てそれをテーブルに置くと、茜は、あーあ、と宙を仰いだ。

「檜も少しは。わたしの事を好きになってくれてると思ってたんだけどなぁ」

「……ごめん」

「ううん、謝らないで? わたしそういう辛気臭いの嫌いだし。まぁ~……、ヤれただけでもラッキーだって、思っとく」

 そう言って茜は、へへっと笑った。

 時にウザったくも有ったが、彼女のこういった底抜けの明るさに、僕が何度か救われてきたのも事実で。申し訳なさから胸が痛んだ。

 昼過ぎにしていたカイとの話を、(はな)から確かめる気など無かった。

 その頃から茜が、ただひたむきな恋愛感情を向けていたのだとすれば、曖昧な態度で彼女を抱いた行為は、辛辣としか思えなかった。

 それに写真を撮ったのが本当に茜でも、僕の知り得る範囲では、彼女は何もしていない。そう思っていた。

 今茜に、どんな言葉を掛けて良いのか分からず、僕は返答にまごついた。