ボーダーライン。Neo【上】

 檜の口調は、かつて付き合っていた頃と変わらぬ自然体だった。

「……そうですけど。どちら様ですか?」

 敢えて知らない人と決め付け、また他人行儀に訊ねた。

 あたしは右手でギュッと胸を押さえ、首筋のハイネックを正した。

 深夜、檜の部屋を出てから近くのビジネスホテルに泊まった。

 今朝部屋の鏡を見て、全身が熱くなった。

 首筋から胸元、腹部に至るまで、紅く散りばめられた彼のキスマーク。

 首筋のそれが隠れるよう、慌ててハイネックの服を購入し、着替えてから帰宅した。

 昨夜一度きりと割り切って、あんなに求め合った相手だ。

 婚約者(しんちゃん)がいるあたしにとっては浮気相手に他ならない。

 ここで檜への愛情が、復活するのだけは避けたかった。

『渡した鍵を返して欲しい。借りパクはマナー違反だろ?』

 あたしはソファーに腰を据え、小さく息をついた。

「何でアドレス知ってるの?」

『奈々から無理やり聞き出した』

「そう。じゃあ鍵は水城さんに預けるから、彼女から受け取って?」