ボーダーライン。Neo【上】

「幸子……?」

 再び呼び掛け、リビング周辺を確認するが、やはりその姿は無い。

 帰ったのだと分かり、やっぱりな、とため息がもれた。

 ふと、ソファー前にあるテーブルの上に何か置いて有るのに気が付いた。

 一万円札が三枚と、彼女が書いたと思しきメモ書きだった。

「……金なんかいらねぇ」

 自分が出した要求だが、僕は顔をしかめた。

 少しでも幸子の真意が知りたくて試すような真似をした。金銭を要求すれば、抱いて欲しいと言った裏側を吐露すると思ったのに。

 幸子は僕なんかより一枚上手だった。

 ーー本当に体だけが目的だったのか?

 ソファーに腰を据え、書き置きに目を通した。

 《別れが辛くなるから眠っている内に帰ります。
 あなたの体が三万円だなんて、安すぎるけどごめんなさい。持ち合わせが無くて…。
 それから、部屋の鍵は閉めて出ます。
 渡された予備だけど、返す方法も無いのでそのまま持ち帰ります。
 さようなら。

  幸子 》

「……鍵」

 僕はメモを手に、暫く考えた。

 部屋の鍵だから、勿論それは返して貰わなければいけない。

 しかし《返す方法もない》と書かれた事と、文末にある別れの文句から、幸子はもう二度と会わないつもりなのだろう。

 少なくとも、自分からは。