「……すき」

「え」

「秋月くんが好きっ!」

 彼を離したくない、その一心であたしは彼を抱きしめていた。

 やがて彼も抱き返してくれた。

 あたしは好きな人の腕の中で、安堵の息をもらした。

 もっと早くにこうすべきだった。ロンドンでキスをされたあの夜。つまらない体裁や、自分本位な考え方を捨てて、素直な気持ちを伝えていれば良かった。

 高校生のあたしなら、きっと何も考えずに好きな人を受け入れていただろう。そう考えると、大人になるというのはしがらみを増やす事だな、と冷静な頭で思った。

 どのぐらいそうしていただろう。

 沈黙を守ったまま、二人してぎゅっと抱き締め合っていた。

 壁に取り付けられた室外機の音や激しく打つ心臓の音。

 そして秋月くんの息づかいまでもが耳に届いた。

 程なくして、秋月くんはあたしの肩へ触れ、体を離した。

 赤い顔で、真剣な目をしていた。

 見つめ合うと、また涙が頬を伝った。

 彼のしなやかな指先が頬に触れ、それを拭ってくれる。

 秋月くんは躊躇いがちに、顔を傾け、距離を詰めた。

 ーーキスが。欲しい……

 あたしはそっと目を閉じた。すると、また一粒、涙が零れる。