ーーうそ。
「あっ、秋月くん」
後ろ向きに見上げると、彼は険しい顔で、男二人を睨みつけていた。
一瞬、都合のいい妄想かと思ったが、彼はあたしを守ろうと肩を抱いていた。その感触で現実だと分かる。
「なんだ、てめぇ?!」
男の一人が、秋月くんを見て凄んだ。
「……先生」
彼は少しだけ屈んだ体勢で、何か言おうとするが。凄んだ男に、突如として、右頬を殴りつけられた。
「きゃあっ!?」
ふらっと体勢を崩すが、転ぶのだけはどうにか持ち堪え、秋月くんは体を反転させた。
「ッてーな、このッ!!」
怒鳴りながら、見事な回し蹴りがヒットする。
当たった場所が悪かったのだろう。殴った相手が後方に倒れた。
「やっべッ!」
もう一人の男が倒れる片割れを、抱き起こしている。
「先生、逃げよっ!?」
頷く間もなく、秋月くんに手を引かれ、駆け出していた。
闇雲に走り回り、何とか男達を撒いた。
逃げ込んだ狭い路地裏で、あたしはゼイゼイと息をし、心臓を押さえた。バクバクと音を立て、脈を打っている。
「あ、ありがと……っ」
「いや……」
言いながら、秋月くんがグイッと口元を拭う。殴られた拍子に端が切れたのか、血が滲んでいた。



