ボーダーライン。Neo【上】

 悪いけど、もうあなたの事は何とも思ってないから諦めて、なんて。そんな言い方をしたら、流石にまずいだろう。

「裏に番号載ってるから。また電話してきて?」

「う、うん」

 半ば、押し切られる形であたしは名刺を受け取ってしまった。

 午後七時になり、二次会の会場へと移動する。

 コウちゃんと並んで歩きながら話し、ふと夜間作業中の工事現場が目についた。

 作業着姿で白い息を吐き出す男の人を見て、自然と足が止まる。

 サチ、どうした? と。コウちゃんがあたしの顔を覗き込むが、あたしの頭には最早秋月くんしか居なかった。

 ーー会いたい。

 衝動的な感情があたしを支配した。

 結局のところ、あれからも彼は学校を休み続け、そのまま冬休みに入ってしまった。もう二週間、まともに顔を見ていない。

 あたしは、キュッと唇をかんだ。

「ごめん。コウちゃん」

「ん?」

「これ。貰えない」

 先ほど渡された名刺を鞄から取り出し、彼に返した。

「何で?」

 コウちゃんは訳が分からないと言いたげに眉をひそめる。あたしは俯きがちに続けた。

「あたし。好きな人がいるの」

「……え」

「だから」

 真剣そのものの瞳を向けると、彼は一拍黙り込み、やがて、分かった、と頷いた。