ボーダーライン。Neo【上】

「でもさ?」

「うん?」

「やっぱマジでセンコーに告る奴なんかいねーよなぁ」

「そんな事っ」

「ん?」

 あたしはハッとして、口を噤んだ。

「う、ううん。何でもないっ」

 慌てて頭を振り、頬に手を当てた。

 あたしが生徒の一人に恋をしている事は、誰であってもバレたらいけない。

 秋月くんの事を想い、顔が火照った。

 沈黙してグラスを傾けていると、今日はな、と急に改たまった口調でコウちゃんが言った。

「実はサチに会いたくて同窓会、開いたんだ」

「え?」

 あたしは眉をひそめ、小さく口を開けた。

「俺、半年前に前の女と別れたんだけどさ。最近すっげーサチの事思い出して。考えたら会いたくなった」

 ーーなにそれ。

「そう、なんだ?」

 ハハっと軽く笑い、彼から目を逸らす。

 ーー要はこの季節に一人でいるのが寂しいから、その場しのぎの彼女が欲しいって。そういう事でしょう?

「サチも今フリーだって聞いた」

「うん」

 コウちゃんはジャケットのポケットから名刺入れを取り出し、中の一枚を差し出した。

「俺は今IT関係の仕事してる。良かったら今度、二人でメシでも行かない?」

「え、っと」

 勿論、そんな肩書きなんかであたしは釣られない。でも、なんて言って断ったらいいのか分からず、躊躇した。