だからこそ、別れた今となっては色褪せた思い出として心の中に仕舞い込み、これで良かったのだと納得出来るのだ。

 秒針の音が耳の奥に戻ってくる。

 ふと時間が気になり、携帯の液晶からそれを確認した。慌てて日記帳を元の箱に仕舞おうとしてピタッと手が止まる。

 何となく、時間が空いた時にでもまた読み返したくなるのでは無いかと思った。

 仕事用の鞄へツイと目をやり、その中に日記帳を仕舞った。

 自分用のクローゼットの扉をパタンと閉めたところで、部屋のインターホンが鳴る。小さな安堵感からふぅ、と息がもれた。

「お帰りなさい」

 言いながら玄関の扉を開けると、いかにもサラリーマンですといった感じの今の恋人、葛西(かさい) 慎一(しんいち)が「ただいま」と言って笑みを浮かべた。

 どちらかと言えば、中肉中背で髪は短髪。身の丈は百五十そこそこのあたしより、十センチか十五センチは高い。

 慎ちゃんの温和な空気に和み、ホッと安堵した。ただ一緒にいるだけで安らげる存在。彼の隣りこそがあたしの居場所なんだなぁ、と改めて認識する。

 慎ちゃんは何に対しても真面目な人だった。

 仕事は勿論、時間やお金、生活習慣に関しても。