◇ 日記 5

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 仕事のない休日。あたしは余裕をもって、晩御飯の支度をしていた。誰かの為に作る訳もなく、自分を楽しませる為の料理だ。

 元より、料理は嫌いじゃなかった。スーパーで売っているお惣菜より、自分で作った方が経済的で美味しいと気付いてから、時間が許す限り自炊を心がけている。

 茶碗蒸しの具を入れ、卵液を注ぐと、あたしは蓋をしめた。照り焼きにするブリもそろそろお酒で臭みが抜けたかな、とフライパンで焼き始める。

「あとは~」

 ーーお味噌汁は余っちゃうから、インスタントでいいや。

 蒸し器の用意ができ、茶碗を置くと、エプロンのポケットが急に震え出した。電話だと知りつつ、先にタイマーをセットする。

 液晶を見つめ、笑みを浮かべた。

「もしもし?」

『あ。先生? 俺』

「うん。秋月くん、こんばんは?」

 手持ち無沙汰なので、とりあえずは台所の椅子に座る。心なしか、彼の声が弾んで聞こえた。

『こんばんは。……今、何してんの?』

「今は。晩御飯作ってるところ」

『あ~、ごめん。料理中ならまた後で』

「あ、いいのいいの。大丈夫だから。気にしないで?」

『そう?』

「うん」

『じゃあ~、晩御飯なに作ってんの?」

 そこであたしはフッと吹き出した。フライ返しで、焼いているブリをひっくり返した。