にっこり笑った彼の美貌に口を噤むしかなかった。そしてその笑みに根負けし、あたしは今度こそ溜め息をついた。

「いいわ。じゃあまた偶然、……会えたら教えますね?」

 どうせ会える訳が無いと思っていた。

 礼もそこそこに、あたしは運転席のドアを閉め、そのまま車を出した。何のお礼もしない自分に一瞬気が咎めたが、ただナンパを断っただけ、と言い聞かせハンドルを握る。

 大学生の彼になど、もう二度と会う機会は無いと高を括っていた。

 しかしながら、その安易な予想は見事に裏切られ、三日後に再会した。

 結論から言うと、彼は生徒だった。大学生では無く、高校生。

 赴任先の西陵(せいりょう)高校で担任を務めた、二年二組の出席番号一番が、秋月(あきづき) (ひのき)だったのだ。

 まさかと思わざるを得ないが。印象的な顔立ちを見紛うはずもない。

 結局、彼の提案通りに事は運び、その後連絡先を交換する羽目になった。

 偶然会ってしまったのだから仕方ないと諦めたものの、彼の口振りから、既に学校で会える事を予測していたのだと知った。

 あの日、車の助手席に置いていた教員用の提出書類が見えた、と彼は言っていた。



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