「……それ、ナンパですか?」

「あ、はい。まぁ」

 もう唖然とするしかなかった。

 何かいけない事でも言っただろうかとキョトンとする彼を見て、溜め息すらつきたくなった。

 今時の若い男の子にしては何て親切で礼儀正しいのだろうと、拍手を送りたい気持ちまで芽生えていたのに、とどのつまりは異性への下心が理由だった。

 あたしは目を細め、尚も直視してくる彼を見据えた。

 それなりの正義感と真面目さを持ち得るせいか、あたしは元来ナンパという行為を嫌っていた。

「送って頂けたのは有り難いんですけど。あたし、ナンパする男の人って苦手なんですよね」

「……はぁ」

「だから教える事は出来ません」

 世話になっておいてその物言いはなんだ、ともう一人のあたしが責め立てる。

 けれど、自分の意思だけはしっかり伝えておこうと思った。

 彼は目を瞬き、一拍、言葉を失っている。

「あ、えっと」と次に発する言葉を思案しているので、あたしは呆れた目で「まだ、何か?」と問い掛けた。

「あ、じゃあこういうのどうっスか?」

「はい?」

「もしもまた。ばったり会う事があったら、番号と名前! 教えて下さい」