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 カプチーノを満たしていたカップは、既に空だった。

 手首の腕時計へ目を落とすと、午後九時を二十分ほど過ぎている。

 慎ちゃんはどうしているだろう、とふと考えた。まだ同僚達と飲んでいる途中かもしれないが、もしかしたらそろそろお開きになるかもしれない。

 ーーあたしも帰らないとね。

 手にした日記帳を鞄へ仕舞い、席を立った。

 暖かな店内で休んでいたせいか、外は来る前より寒く感じられた。一時間前に飲んだお酒の影響で、体の芯が冷えたのだろう。

 ーーしまったな。手袋、持って来れば良かった。

 あたしは両手を擦り合わせた。

 今日は家を出る間際になって電話が鳴り、それに応対していたせいか、うっかり手袋を忘れてしまったのだ。

 仕方なく、ポケットに手を突っ込んだ。早く帰ろう、と急いで路地を進む。

 ーークラス会に……檜はちゃんと来たのかな?

 ぼんやりとそんな事を考え、ふと足が止まる。

 自動販売機の明かりが、すぐ側にあった。そのまま通り過ぎようかとも思ったが、あったかい、と書かれたホット飲料に視点が吸い寄せられた。

 温かい飲み物なら、小一時間前に飲んだところだが、カイロ代わりに缶コーヒーでも買おうかな、と思い、あたしは自販機と向かい合って立っていた。