「……あ」

 何かを思い出した様に、秋月くんが小さく呟いた。

「今後、なんだけど。何の理由もなく電話とかメール、してもいいのかなって」

 ーーまた、メール。してくれるんだ?

 気軽に電話で話せるなら、どんなに良いだろう。

 あたしは誘惑に負け、また頷いた。

「ありがと」

 申し訳無さを感じながらも、やはり嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 頬の熱が広がり、耳まで熱い。ゆでだこ状態の自分は滑稽だと思えたが、そんなの仕方ないじゃない。

 秋月くんに言い寄られて、普通になんて出来ないよ……

 彼と向き合ったまま、右手で口元を押さえていると、不意に頭をポンと撫でられた。

 本当の素顔で顔を上げる。秋月くんは今までに見た事もない、穏やかな表情(かお)で微笑んでいた。

 つられて、あたしもはにかんだ。教師の仮面はどこへやら、純粋に笑っていたと思う。

 卒業して、また告白してくれるのなら、それを待とう。結婚とは程遠いかもしれないけれど、秋月くんと恋人同士になって、何の気兼ねもなく触れ合えたら……どんなに幸せだろう。

 あたしは手にした携帯を、鞄の中に仕舞った。

「じゃあ俺、帰るから。また明日ね?」

「あ、秋月くん」

「なに?」