「彼女、生活が苦しそうで。親の残した借金を返そうと健気に頑張ってて。見捨てる事は出来ない」

 あたしは唇を噛んだ。感情的になる事は無いと思っていたのに、圭介の同情か愛情か分からない、曖昧な感情に腹が立った。

「だったら、あなたが彼女を支えてあげれば良いじゃない? あたしは巻き込まれたくないっ」

 わなわなと唇が震えそうなのを堪えると、視界が滲み、涙が溢れた。

「幸子……」

 圭介はきっと人が良すぎるんだろう。あたしが泣くと、いつも狼狽えて何とかしようと考える。

 でもきっとそれは彼女に対しても同じなんだ。

 あたしは俯き、涙を拭った。

「ごめんなさい。何を言われても、あたしはもうやり直せない。圭介の事、前みたいには愛せない」

 圭介は虚ろな瞳で頷き、そうだよな、と呟いた。

「浮気した事、今はもう責めてないよ」

「え?」

「あたしも多分、一緒だから」

「それって……」

 彼は少しだけ目を見張り、眉間を歪めた。

「あなたへの気持ちが冷めた時。気になる人が出来たの。だからと言ってその人とどうにかなるのは無理だし、また別の恋を探すつもり。

 だから、あたしにした事を悔やむのは止めて? 圭介は今まで通り、奈美さんと関係を続ければ良い」