◇ 日記4

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「別れよう、あたし達」

 あたしがこう言う事を幾らか予期していたためか、彼は然程(さほど)驚きはしなかった。

 前に会ったのはいつだったか。確か夏休みに入って直ぐ、今日と同じように外でご飯を食べたはずだ。

 二人でよく来た焼肉屋さん。夏休みの最中、店内はいつも以上に賑わっている。

 あたしの真向かいに座る彼氏、圭介はトングを持ったまま真顔で見つめ返した。

 網焼きのお肉がいい具合に油を浮かせている。

 あたしに向けた視線を再度下ろし、圭介がお肉をひっくり返した。音と香りが充満する。

 お肉が焼けるまでの間、圭介は何も喋らなかった。彼なりに言葉を探していたのかもしれない。

「別れるの? 本当に?」

 冷静な口調で圭介が訊ねた。

 程よく焼けたカルビと塩タンをあたしの皿に乗せてくれる。

 あたしは、ありがとう、と言いながら、彼を見つめ真顔で顎を引いた。

「ごめんね。今まで知っていて知らない振りをしていたの。アリサさんのこと」

 圭介は目を伏せ、自分の皿にもお肉を入れた。そうだよな、と言いながら眉が下がる。

「アリサは源氏名だからさ。本当は奈美って言うんだ」

「うん」

 それも知っている、と言葉を飲み込み、あたしは彼を見ていた。